【書評】鹿の王 上橋菜穂子

上橋菜穂子さんの「鹿の王」
緻密に作り上げられた世界観に魅了され、一気に読みきってしまいました🙌
 
小説を読んで感じたこととしては以下の3つ。
  • 人間の心と身体の関係
自分が所有して思うままに動かしていると思い込んでいる”身体”。
でも、無意識のうちに身体に支配されていることにはっとさせられました。
そもそも生物の生き死には精神によってではなく、肉体によって規定されています。心と身体は連動して深く密接しているけど、別物なんだ。
 
  • ”身体”とは生命の複合体で成り立っている、そして境界線はあいまい
わたしの身体と思っているものも、実は細菌やウィルスが日々共生していて、その働きによって生命が維持できています。
そうなると、どこまでが自分の”身体”とみなしていいのかわからなくなります。
身体と心、自らの身体と他の生命との境界線はどこにあるのでしょうか。
また、他の生命ありきで肉体を保っているのだとすると、人間は真の意味で”ひとり”では生きていけず、知らず知らずのうちに生かされている存在ということになります。
 
  • 人間のつくる社会構造と生命の維持体系は類似している
 
本文より心に響いた文章。
 
”身体も国も、ひとかたまりの何かであるような気がするが、実はそうではないのだろう。雑多な小さな命が寄り集まり、それぞれの命を生きながら、いつしか渾然一体となって、ひとつの大きな命をつないでいるだけなのだ。そういう大きな理の中に、我々は生まれ、そして、消えていく。”
 
この文章に、長い物語のエッセンスが詰まっているように感じました。
 
生命のミクロな体系と人間社会のマクロな構造が類似している不思議。
 
物語ではそれぞれの民族がお互いの信念をもち、正義に基づいて行動していきます。
完全な善人、完全な悪人がいるのではなく、みなが家族を愛し、土地を愛しているとても人間らしい心を持った人々。
 
みなが平和を願い、幸せに暮らしたいと願っているはず。
 
だからこそ、すれ違う正義によって起こる戦いが悲しい。
 
また、そうした構図は抗争状態にある国同士の戦いという非日常の中だけにあるのではありません。
 
広がっていく病に対して、対照的な立場をとる医師たちの姿も描かれます。人命救済を第一に掲げ手段を選ばない者、宗教・伝統を守り人々の心が救われることを優先させる者。
 
お互いの正義を貫くことで生まれる葛藤や衝突は、複雑な社会課題を抱えている現代を生きる私たちにも共感できるものです。
 
読んでみて
 
昔は年間300冊程度本を読むほど本の虫状態でしたが、最近はあまり書を手に取るはなくなり、読んだとしてもビジネス本という状況。
 
久しぶりに小説を手に取ってみると、想像以上に楽しく、下手なビジネス本や自己啓発本よりよっぽど生きた学びが得られました。
 
今回「鹿の王」を読んで、
・人間の精神と身体の関係(なぜ有性生物は死に至るのか)
・生命の共存(人間と細菌・ウィルス、共生して生きている生物の仕組み)
・病が人間社会に及ぼした影響(ヨーロッパにおけるペストの流行)
の3点についてもっともっと学びを深めていきたいです。
 
お金に糸目をつけずに本を買ってガシガシ読んでいきます🙌